映画「国宝」は、2025年9月15日現在、142.5億円に達しました。今の邦画はアニメ、あるいは漫画原作の実写作品が多いのはこちらでの大ヒット作品が多いので実写作品では異例であります。
同時期公開の「鬼滅の刃 無限城編第一章」は配給元のアニプレックスが9月16日に本作品の興収が330億円という発表をしました。前作の「無限列車編」は470億円で、それに次ぐ邦画の歴代第2位です。ここまでのメガヒットじゃなくても、アニメファンを含む多くの若者を動員して大ヒットが何本もあります。
ですから邦画の実写作品で100億円超えは22年ぶりです。22年前の100億円越を果たした作品は「踊る大捜査線 レインボーブリッジを封鎖せよ」で興収173.5億円です。今回の「国宝」は現在も客足が衰えないので、「踊る大捜査線 レインボーブリッジを封鎖せよ」を超えることが期待されています。
映画「国宝」評価 映画「国宝」が映像化されるまで
「国宝」は李相日監督作品です。原作は吉田修一です。このコンビは「悪人」(2010年)「怒り」(2016年)に続いて3作目です。李監督が吉田が歌舞伎を題材に小説を書いていると聞いてそれを新聞連載の時は読まずに完結するまで待っていたそうです。
そして書籍化する前のゲラの段階で初めて読んだと言います。そして単行本として出版(上・下巻2018年9月発売)されると、テレビドラマと映画で映像化の話がすぐに出たそうで、李監督も映像化に動きました。ところが、どうもうまくいかず何度も頓挫してしまいました。
そんなこんなで具体的に「国宝」の映画化が動いたのは2020年の中頃でした。そして主役の喜久雄役は最初から吉沢亮と決めていました。彼がやってくれたなら、この映画は成功すると確信していたといいます。
映画「国宝」評価 主演の吉沢亮と横浜流星の熱演が映画の魅力となった
その吉沢亮と相手役の横浜流星は歌舞伎役者に扮するために、歌舞伎の所作を学ぶために1年半費やしました。吉沢は撮影に入る前の1年3か月前に、横浜は数か月遅れて稽古したようです。
歌舞伎役者にしてみれば1年半くらい練習したからって、歌舞伎役者になれないよというかも知れませんが、邦画でこの準備にこれだけ時間をかけるのは稀です。もう邦画のメジャー会社は映画を作る力がなく数社のスポンサーが○○製作委員会を立ち上げてから製作するのが主流です。
したがって大作が作れない状態です。スポンサーも当たるのあたらぬのという博打に大金をつぎ込めないから、少ない金額を出資するのです。
だから役作りにこんなに時間をかけることに、この映画の本気度もわかります。日本の伝統芸能を題材にするからにはいいかげんなもの、拙速なものは作らないという気概が、画面に厚みを与えていますね。そこが他の邦画と違うぞと見入ってしまいます。
ただ、歌舞伎ファンが観ると、やっぱり吉沢と横浜の歌舞伎演技は薄っぺらに映るようですね。これは熟練の技は役者が付け焼刃とまでは言わないけれど、ちょっと練習したくらいでは身につかないということで、そこは大目に見てほしいものです。
映画がこんなにメガヒットにいつもの邦画と違う丁寧に作りこんだところにもあるますね。吉沢亮も横浜流星も役作りにこんなに頑張ったのも役者としての矜持を感じさせます。これによくついていったものです。これはアイドルを起用したらアイドル本人か所属事務所かがこれに難色を示すでしょう。どうもセリフさえ言えばいいと思っている適当なアイドルがいますからね。
映画「国宝」評価 映画「国宝」はなぜ大ヒットしたのか?
映画の内容は歌舞伎役者の人生を描くものですが、主人公の孤独な生きざまや芸に狂おしいほどに没頭するのに、観ているものも心を動かされました。芸道ものは芸に没頭するために家族や友人まで犠牲にするような行動を取るところに狂っているなあと思うわけですが、本作品だと主人公に共感してしまいます。
この普遍的な人間の孤独と自分をかけるものには狂的にのめりこむという性が、役者の熱演と歌舞伎の絢爛たる舞台と融合して厚みのある画面からくる熱気を感じさせるのです。
公開当初は興行成績はあまり目立ったものではなかったのですが、SNSでの口コミやリピーターの増加がどんどん観客を増やす結果になりました。3時間という長さなのにもかかわらず、作りこんだ作品にその長さも苦ではありません。
大ヒットしたのは歌舞伎ファンや主演俳優のファンばかりではなく、広く老若男女問わずこの歌舞伎役者を描くということに興味を引いたからでしょう。
また相乗効果として歌舞伎公演のチケットの売れ行きが伸びました。
映画「国宝」評価 映画「国宝」のメガヒットが日本映画の奮起になれば、と思いました。
今回の大ヒットが邦画各社の奮起をうながすものとなればいいと思います。私はアニメオタクじゃないですが、アニメが嫌いなわけではありません。だから今の邦画で観客動員を大きく望めるアニメの製作をけなすことはしません。ですが、アニメに頼り、実写作品の質の貧困さにはうんざりです。邦画の実写作品にはこれはぜひ観たいと思うのが本当に少ないのです。観たくなるのはアニメの方ばっかりなのは、寂しくなります。
ネットフリックスの「新幹線大爆破」が大好評なのも、邦画のメジャー会社の衰退を感じます。配信でしか観られない上質な映画をサブスクの会社で次々と製作されたなら、映画館の危機でもあります。これからもここでしか観られない映画をサブスクで積極的に製作したら、映画館の観客が減っていきます。
時間とお金のかかる映画館よりもサブスクの方が手軽じゃないかとなったら、映画館を愛するものとしてもとても危機感を覚えます。ですから「国宝」が邦画の企画を立ち上げるときのカンフル剤になることを私は期待します。

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