「風の谷のナウシカ」は宮崎駿監督の長編アニメーション映画第2作目です。1982年に『アニメージュ』に連載していた宮崎の同名漫画(『風の谷のナウシカ』)を原作としています。
興行収入も大ヒットを記録し、批評面からも好評を得て、スタジオジブリをするきっかけを作った作品です。
風の谷のナウシカ 作品をめぐるトリビア ① 興行収入も批評も大ヒットしたアニメの金字塔
興行収入と集客力 :配給収入は約7億4000万円(興行収入およそ14.8億円)、観客動員数は約91万人を記録しました。当時は「宮崎駿」という監督名や「スタジオジブリ」というブランドが今ほど認知されていなかった時代ですが、オリジナルのアニメ映画としては大ヒットとなり、映画館には立ち見が出るほどの盛況を見せました。
アニメ賞・映画賞の受賞 :批評家や専門家からも絶賛され、以下のような国内主要映画賞・アニメ賞を多数受賞・総なめにしました。
第39回毎日映画コンクール: 大藤信郎賞
第26回ブルーリボン賞: 特別賞
アニメージュ(第7回アニメグランプリ): 作品賞 (グランプリ)
宮崎駿の知名度を上げただけでなく、オリジナル作品をテレビアニメでなく長編アニメ映画として成立・成功させ、日本に於ける原作に依らないオリジナル長編アニメ映画の礎を築きました。
第58回キネマ旬報ベスト・テンで、アニメ作品として史上初めて日本映画ベスト・テンに名を連ねます。また、オリコンチャートで、1997年発売のVHS版、2003年発売のDVD版、2010年発売のBlu-ray版、各部門1位を獲得し、史上初めて同一作品の3部門制覇を成し遂げました。
風の谷のナウシカ 作品をめぐるトリビア②海外改変版 Warriors of the Windを巡る真相とは何か?
アメリカでニューワールド・ピクチャーズ社の配給で劇場公開され、同年にVHSビデオで発売されました。しかし、宮崎のアメリカにおけるデビュー作である本作はまだ宮崎に強い発言権がなく、アメリカ側により宮崎に許可を得ぬまま多数の改変が行われます。
『Warriors of the Wind(風の戦士たち)』という表題にされキャラクター名も変更されたのみならず、複数のカットがなされた他、全体が1.05%の早回しにされて116分から97分に編集された状態で発売された。
宮崎の熱心なファンであるトーレン・スミスが宮崎のプロデュースを一手に担っていた鈴木敏夫にこれを伝えていました。しかし、鈴木はクレームを入れたら海外で発売されなくなると判断し宮崎に伏せていました。映像研究家の叶精二によると、朝日新聞1985年9月17日夕刊「いまアニメの時代」の連載3回目を読んで初めて知り激怒したと証言しています。
『Warriors of the Wind』はその後南アメリカやヨーロッパに二次輸出され、アルゼンチン、イギリス、スペイン、フランス、ドイツなどで改変された内容のままVHSがリリースされます。フランスではVIP Internationalから『Le Vaisseau Fantome(幽霊船)』の題で、Blue Kid’s Videoから『La Princesse des Etoiles(星のプリンセス)』の題で発売されました。
その後ディズニー配下のブエナ・ビスタ・インターナショナルがビデオ配給の権利を得て、改変が施されていないオリジナルバージョンが各国に配給されるようになります。後に2005年にナウシカの完全英語版がDVDで発売されました。この英語版で、ペジテ市長役としてマーク・ハミルが声の出演をしています。
『風の谷のナウシカ』作品をめぐるトリビア ③庵野秀明の下積み時代に参加して、作品自体は日本アニメの新境地を開く
原画スタッフに庵野秀明が参加: 後に『新世紀エヴァンゲリオン』を手掛ける庵野秀明氏が、新人アニメーター時代に原画スタッフとして参加しています。クライマックスに登場する「巨神兵が腐り落ちながら光線を放つシーン」の緻密な作画・エフェクトを担当しました。
スタジオジブリ設立のきっかけとなった:本作の制作会社は「トップクラフト」ですが、興行的な成功と高い評価を受けたことで、宮崎駿監督や高畑勲プロデューサーらが中心となり、ジブリ次回作『天空の城ラピュタ』の制作に向けてスタジオジブリが立ち上げられました。
風の谷のナウシカ作品を巡るトリビア④アニメと原作の違いとヒロインのネーミングの由来を探る
原作漫画と映画でストーリーが大きく異なる: 宮崎駿監督による原作漫画は全7巻あり、映画化されたのは序盤(約2巻分まで)のストーリーです。原作ではトルメキアと敵対する巨大帝国「土鬼(ドルク)」が登場するなど、世界の勢力図やラストの結末が映画とは大きく異なります。原作漫画は全7巻に及ぶ大作でなので、トルメキアと土鬼(ドルク)諸侯国の壮絶な戦争を軸に、ナウシカが広大な世界を巡りながら様々な真実や文明の問題に直面する物語です。映画には登場しない「土鬼諸侯国」や「シュワの墓所」、秘石などの設定も描かれ、世界観は映画より遥かに広がっています 。
登場人物の違い:映画版では登場人物は比較的少なく、ナウシカ、クシャナ、トルメキア兵、ペジテ市の人々が中心です。原作漫画では、映画に登場しないキャラクターが12人以上存在し、森の人セルム、土鬼王国末裔チクク、土鬼の僧正、トルメキア王ヴ王など、物語に深みを与える重要人物が多数登場します。
ヒロインのキャラクター描写の違い:映画版のナウシカは、常に優しく生命を尊重する「聖女」のような純粋なキャラクターとして描かれています。傷ついた王蟲の子を守り、キツネリスに噛まれても恐れず接する姿が印象的です。
原作漫画のナウシカは、より複雑で多面的です。風の谷の族長ジルの跡継ぎとして責任を背負い、時には男性的な言葉遣いをすることもあります。優しさだけでなく勇ましさも兼ね備え、土鬼の僧正を人質に取るなど強引な行動をとる場面もあります。原作ではナウシカはより重い選択を迫られ、キャラクターの奥深さが際立っています。
クャシナの描写の違い:映画版ではクシャナはトルメキア軍の将軍としてナウシカと対立する「敵役」として描かれますが、原作漫画ではより複雑な政治的立場に置かれ、単純な敵役ではなく、物語の中で多面的な役割を持っています
世界観とテーマの違い:映画は腐海や巨神兵の存在を中心に描かれ、ナウシカの平和を守る物語として完結しています。しかし原作漫画では、ナウシカが風の谷を出て広大な世界を巡り、戦争や文明の問題、生命と自然の関係など深いテーマに直面します。映画だけでは描かれない文明批判やナウシカの内面の葛藤が原作の大きな魅力です
ナウシカの名の由来: 主人公ナウシカの名前は、ギリシア神話の叙事詩『オデュッセイア』に登場する王女「ナウシカアー」と、日本の古典文学『堤中納言物語』の「虫めづる姫君」を組み合わせて着想されたといわれています。
「オデュッセイア」を実写映画化された「ユリシーズ」(1954年)はアマゾンで追加料金なしでご覧いただけます。ヒロインの名前のもとになったナウシカアーも登場しますので、これをきっかけに鑑賞するのも一興だと思います。
一方、「虫めづる姫君」は社会の慣習に反し、平安の宮廷婦人に期待される振る舞いを破る女性を描いた、12世紀の日本の物語。短編小説集『堤中納言物語』内の10話ある短編の一つであるのですが、なんとも主人公は型破りのキャラクターなんです。
主人公は昆虫を飼育し、彼女の供の者に「昆虫の名前」を付け、子どもたちにも「虫のアダ名」をつけて、手下のようにして、虫をつかまえてこさせます。そして毛皮のような毛虫を含む歌詠を好んで、他人には笑いをもたらせます。さらに風変わりなものとして描写されているのは、彼女が身なりを気にしないことで、髪を耳の上に掻き上げ、眉毛を抜きもせず、 歯を黒くすることを怠るのです。当時は女性は葉を黒く塗るという化粧のたしなみみたいなことをしています。
今ならオタク文化も認めていますからこういうキャラも面白いなと思うかもしれません。ですが、平安時代の平均的な女性像からすればなんという珍奇な、悪くすると不道徳的なキャラなのです。
ナウシカのちょっと浮世離れした不思議ちゃんのキャラはここからきているのでしょう。
興味が湧いてきましたら、これも読んでみるとこのアニメを深く鑑賞できますよ。
おまけのトリビア ヒロイン声優を巡る秘話
ナウシカ役・島本須美のオーディション 声優の島本須美さんは、『ルパン三世 カリオストロの城』 クラリス役などの実績があります。ナウシカ役のオーディションを勝ち抜いて抜擢されました。「カリオストロの城」も演じたから今回もよろしく、というわけではなかったようです。宮崎監督はオーディションでの彼女の声を聞いて即決したとされています。
いかがでしたか。ファンならご存じのことばかりだったかもしれません。しかし、初心者には驚きを感じてもらえる情報もあったかもしれません。
トリビアは映画鑑賞の味付け、調味料です。そのままでもおいしいかもしれませんが、味をよくするためにはトリビアも知っておいて損はありません。
お終いまで読んでくださりありがとうございました。
